ナポリタン発祥のホテルで「元祖の味」をいただきます!

「ミートソースとナポリタン、どっちがいい?」
と聞くと、たいがい「ミートソース!」と答える娘に対して、もっぱら「ナポリタン!」派の夫。それぞれ好みが違い、献立がパスタの日はどちらを作るか(娘と夫、どちらの希望を聞き入れるか)ちょっと困ってしまいます。どちらにも喜んでほしくて、不本意ながら両方作る…、なんてことも。
そこで「とびきりおいしいナポリタンを娘と食べて、娘をナポリタンのファンにしちゃおう!」と思いついた夫。うまくいけば、パスタの日は毎回ナポリタンになるかもしれないゾという魂胆です。2人ともナポリタンのファンになってくれたら、私も幸いこのうえなし。
おいしいナポリタンといえば、横浜の「ホテルニューグランド」。港町横浜を代表する観光地の山下公園に面した老舗のホテルで、このホテルのレストランがナポリタン発祥の地といわれています。


レストランはホテルの旧館一階部分(写真上)。中庭も美しい(写真下)。



以下、ホテルの紹介文を引用。
終戦とともにニューグランドを接収した進駐軍は、それまで日本人に馴染みのなかったケチャップを持ち込んで、ゆでて塩こしょうで味付けをしたスパゲッティを和えました。当時ケチャップとスパゲッティは軍用食でした。(料理長の)入江茂忠は苦心の末、ケチャップではいかにも味気ないので、刻んだにんにくに玉ねぎやトマト、トマトペーストを入れ、オリーブオイルをたっぷり使った風味豊かなトマトソースを作りました。ハム、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームを強火でよく炒め、スパゲッティを加え、トマトソースに合わせ、すりおろしたパルメザンチーズとパセリのみじん切りをたくさんふりかけました。イタリアのナポリで中世の頃、トマトから作られたソースをパスタにかけ、路上の屋台で売られていたのをヒントにスパゲッティナポリタンと呼ぶことにしました」

レストラン入口には資料展示コーナーも。



この内容を娘にひととおり説明すると、アンチナポリタン派の娘もがぜんナポリタンを食べてみたくなったようです。ちょうど小学校で「横浜発祥の物や事」というテーマで自主学習したばっかりだったのもタイミングがよかった。おまけに、創業1927年の重厚なホテルの雰囲気と相まって「ここのナポリタンは、そんじょそこいらのナポリタンとは違うかも!」と期待感もアップした模様です。
レストランに入ろうとすると、休日のためか結構混んでいてウェイティング6番目。すでに空腹だった娘は「えー、6番目? 何分待つの?」
すっかりナポリタンモードになっていたのと空腹もあり、ちょいと不機嫌に。
ナポリタン、ナポリタン……」とつぶやきながら、そわそわと廊下を歩き回っています。あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。もどってくると、
「ねぇ、まだ?」「まだ!」
何回かこんな会話をくり返しながら30分ほど待ち、いよいよ店内へ。迷わず「ナポリタン!」を注文し終えて、やっとひと息。
私「ホテルの廊下にナポリタンのうんちくが書いてあったんだけどさぁ…」
娘「え、うんちく?! 今、ママ『うんち』って言ったよね?」
私「言ったよ…」
娘「うんちくってどういうこと?」
私「あることについて詳しく書いた、豆知識的なことって感じかな。」
娘「えー、それがうんちくなの? 『うんち』くっていうから、『うんち食っちゃう』かと思っちゃったよ。ママー、もうやだな〜。ギャハハ」
私「しー。ちょっと静かに!」
小4女子、由緒あるホテルのレストランであることはすっかり忘れて「うんちく」に妙に反応します。やれやれ、疲れます。こんな素敵なホテルのレストランには、ひっそりと一人で来たいものです。娘がひとしきり大笑いしたところで、ナポリタンの登場です。
濃いオレンジ色のケチャップをたっぷりまとった、艶やかなスパゲッティがこんもり。ピンク色のハムと緑色のピーマン、灰色のマッシュルームがほどよいバランスでのっています。

ザ・元祖ナポリタン!


娘「あは〜ん、いい香り」と、うっとり顔。
ケチャップ★ラブな娘は、まずは香りに反応。
私「熱いうちにどうぞ!」
小さな娘の手にはやや大きめのフォークを握りしめ、スプーンのへこんだ部分で少々ぎこちなくくるくるとスパゲッティを丸めて口へ。唇にケチャップをつけないように、思いっきり口をあけて頬張ります。
娘「う〜ん、もちもちしていておいしいねぇ。」
空腹を満たすべくしばし無言でナポリタンを食べ続ける娘。半分ほど食べるとお腹も落ち着いたようです。
娘「ケチャップがたっぷりでいいよね! 家で食べるのはさ、何かケチャップ少なめじゃん。それがいちばん違うところかな。あと〜、ここのはスパゲッティが柔らかだよね。」
夫「そうそう、うちのナポリタンてケチャップ少ないよねー。色が赤じゃなくて、ピンクなの。今まで言うに言えなかった(笑)。やっぱりこれくらいたっぷり入れてほしいよね。」
娘「だよね〜。ケチャップたっぷりだけど、きつくなくやさしい味って感じ〜。」
なるほど。いつも薄味を心がけているため、どうしても私はケチャップをぶにゅぶにゅーっと絞り出すのをためらってしまうのです。
「あ〜、もうひと絞りしたらこってりしておいしいかも〜」と思いつつ、
「あ、でもそんなに入れたら濃すぎちゃう! だめよ、ダメダメ、そんなに入れちゃ!」という気持ちがせめぎあい、ついヘルシーさに負けていました。
私「わかった! 今度はこれくらい思いきってケチャップ入れて作るよ〜。」と夫と娘と約束。


うちのナポリタンも生まれ変わりました!


1週間後、「ホテルニューグランド」で食べた味を思い出して自宅でナポリタンを作ってみました。
夫「お、いいんじゃない! ケチャップたっぷり。今までは皿に盛られてから、自主的にケチャップ足してたけど、なんか違ったんだよね」
娘「んー、この前食べたのとおんなじくらいおいしいよ。スパゲッティも、もっちりしてるし。」とおほめの言葉をもらえました。ナポリタンの極意は、大胆に絞るケチャップと、少々のび気味のスパゲッティ。
娘の「もちもち」「柔らかい」からヒントを得て、ゆでてから30分ほど置いたスパゲッティを使ってみました。ザ★昭和の味ナポリタンにおいては、アルデンテなんてナンセンス。子どもからおじいちゃん、おばあちゃんにも愛される懐かしの洋食の味ですね。
文・渡辺ゆき   写真・小林キユウ



【本日のメニュー】
ナポリタン1,700円

【データ】
ホテルニューグランド
住所:神奈川県横浜市中区山下町10
電話:045-681-1841
http://www.hotel-newgrand.co.jp/