ディープな横浜中華の味。

横浜で中華といえば、中華街。
これ、あたりまえですが、実は横浜の中華は中華街周辺が面白いんです。
「横浜で中華」→「中華街へGO!」というのはガイドブック片手の観光客の発想かもしれません。
本当のディープな横浜中華は、例えば、野毛、本牧、横浜橋あたりにあると
横浜在住の私は最近、強く思うんです。
このあたり、観光客は来ません。
横浜の本当の味がひっそりと息づいています。



ということで今回の舞台は、野毛です。
この界隈は、知る人ぞ知る中華料理店が多いエリアで、飲み屋とうっふん系のお店に交じって、あちこちに中華料理店があります。
横浜港へ続く大岡川沿いに広がる低地。小林にいわせれば「横浜のデルタ地帯」なんだとか。
川の流れで運ばれてきた人間の欲望が堆積された猥雑でディープな雰囲気であることはまちがいありません。
そんな街に寄り添うようにある中華料理店の中で、今回とびらを押したのが第一亭です「台湾料理」と名うっていますが、
名物は豚の腸や胃、舌といったいわゆる臓モツ系。ホルモン大好きの親の勝手な好みで行くことにしましたが、
娘は正直あんまり乗り気ではありませんでした。
小学生女子と、臓モツ、確かにミスマッチかも(笑)。



私「今日さ、臓モツ食べに行かない?」
娘「臓モツ? は、何それ?」
私「胃とか腸とかさ、内臓料理だよん。炒めたり、煮たりさ。おいしいよ〜」
あくまで声のトーンは明るく。いつもより1オクターブ上げています。響きだけでも暗い印象になりがちな“ゾウモツ”への娘の警戒心をとかねばなりません。
娘「内臓って…。もしかしてゾウの内臓食べるの?」
私「えー、あー違うよん。さずがにゾウじゃなくって、豚とかの内臓だよー。わっはっは」
娘「それって、おいしいの?」
私「うん。結構おいしいよ」
ハイテンションを装う私に対して娘は、
「何で土曜日のお昼に臓モツなんて食べなきゃいけないの…。あのさ、何度もいうけど、外食するなら熱々カリカリでとろ〜りのチーズがのったピザとかパスタにしてよ!!。なんなの『食べ録』って。私、一回も読んだことないし‥」と、ぷんぷん顔をしています。
ま、それはそれとして聞いておきますが、今日はとにかく第一亭へ。横浜デルタ地帯で臓モツ系昼ごはんです。



創業は1959年。店構えは、ひなびた昭和の中華屋風情で、数十年前へタイムスリップした気分です。
休日の昼下がりのせいか、ビール片手に臓モツをつつくメンズばかり。壁のテレビからはBGMよろしく、競馬中継が流れています。
お客さんは、意外にも洒落たスーツと靴を身に着けた広告代理店の営業マン風といった人から、大学生の二人組といった人物まで、結構多種多様です。
ま、子連れはうちだけでしたが(笑)。

 

メニューを見ると、ラーメン、わんたん、餃子といった定番メニューに続き、豚足うま煮、豚舌、小袋炒めなど、いわゆる臓モツ系が並びます。
なかでも目を引いたのが、チート炒め。チートって聞きなれませんが、ここでは豚の胃袋のことらしいです。
ネーミングにひかれて、チートの炒め物を注文。娘は、無難に「揚げ焼きそば」。憮然とした面持ちでいる娘に、
「臓モツを注文せよ!」とはさすがにいえませんでした(笑)。
夫は、「パタン」なる裏メニューをオーダー(これはメニュー表にはなく、昔、なぜか雑誌「ブルータス」に紹介されていたのです)




娘が注文した揚げ焼きそば750円。“パリ”&“とろ”、で最後に麺とあんが混然一体になる、3つの味が楽しめるのが揚げ焼きそばの醍醐味。




チート炒め600円。太めのせん切りのしょうががたっぷり入って、いい感じのアクセントです。




裏メニューのパタン600円。麺をいっしょに出てくるスープに浸けて食べてもおいしい。
テーブルのラー油、醤油、酢などで自分好みの味付け自在。




娘「パリパリの麺と熱々とろりのあんがおいしいね。パリッ、とろっだね」
相変わらず仏頂面の娘も、好物の揚げ焼きそばを前に表情がいくぶん和らぎました。
私「ひと口ちょうだいね!」
といっていただくと、はい、普通においしいです。何も、ここまで来て揚げ焼きそばを食べなくても…と、大人は思ってしまいますが、食事は何よりおいしくいただくことが大事。麺とあんをからめて、穏やかな表情で口へ運ぶ娘を見てひと安心。揚げ焼きそばのあんと肉といえば、普通は豚肉が多いかと思いますが、ここではやはり臓モツです。“普通の豚肉ではない”豚肉を見つけるたびに娘は、丁寧に拾い出し、皿の端に寄せます。
私「お肉食べないの?」
娘「うん。だって臓モツでしょ」
ツレない表情です。日ごろ、えらそうなことをいっても、やはり子ども。まだまだ臓モツのおいしさは理解できないようです。
おしゃれに英語で「ギブレット」とでも呼べば印象が変わり、案外食べたくなるのかもしれませんが。
で、私が食べたのがチートの炒めもの。臓モツと切り離せないくさみがまったくありません。
さくっとした口あたりと、すっきりしたしょうがの香り。炒めてからとろみのあるスープで煮込んだような優しい味です。ごはんにもアルコールにも合いそうです。
「旨い、旨い!」と小林もよく食べます。
最後は、パタン。もともとは、賄い飯だったというメニューで、ゆでた太めの中華麺ににんにくやごま油、調味料をからめ、刻んだねぎをのせたもの。一見貧乏学生の手抜き飯?! とも思える一皿ですが、ありそうでないメニュー。
誰が食べてもおいしいなーと思えるわかりやすく安定感のある味です。飲んだ後のシメに出されたら、お腹がいっぱいでもつい食べきってしまいそうです。本当にただの和え麺ですから、細い麺の方がおいしいのでは? と思ってしまいますが、小林曰く
「こんなシンプルな組み合わせでも食べた感があるのは、きっと麺が太いから。細かったら全然ダメ!」なんだとか。
なるほど! 確かにそうかもしれませんね。
とりあえず、帰るときには満腹になった娘もにっこり顔。
臓モツを食べた! 感は意気込みほどではありませんが、ハマのディープな中華料理店でまったりしたお昼ごはんでした。




どこから見ても昭和の香りがぷんぷんで、いい味だしてます!
店の斜め向かい側には、ピンクの外壁のソープランドが昼間から営業中。


文・渡辺ゆき
写真・小林キユウ


本日のお会計
パタン600円
揚げ焼きそば750円
チート炒め600円


第一亭
【データ】
住所:横浜市中区日ノ出町1-20
電話:045-231-6137
営業時間:11:30〜13:30、17:00〜21:00、土日、祝日は11:30〜21:00
京浜急行黄金町駅から徒歩●分、JR関内駅から徒歩●分、
京急本線日ノ出町駅徒歩2〜3分、JR桜木町駅から徒歩10〜12分
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