冬の京都 しっぽりOL風の小3女子

小3の娘と京都にいます。父と娘の恒例の二人旅。
母と娘だと、娘が成人してもよく一緒に旅をする話を聞きますが、父親とはそうも行きませんので、娘が小学生のうちに二人旅をたっぷり楽しんでおこという作戦です。
ということで、娘と京都は昨年に続いて二度目。妻は横浜で留守番です(笑)
 
昼前に京都駅に着いて直行したのは南禅寺。参拝もせず、向かったのはすぐ脇にある湯豆腐の老舗「奥丹」です。昨年、「子どもにはどうかな?」と思いながら行ってみると、意外にも「いいね、いいね、湯豆腐、最高かも」とはまってしまい、翌日の昼も湯豆腐を別の店に食べに行ったほどでした。

さて、「奥丹」再訪です。
南禅寺の境内の一部ような最高のシチュエーション。静寂な空気、これだけでかなりの特別感。境内わきの水路の水が意外もきれいで、娘が見とれています。
「ここがホンノウジ(本能寺)?」
「…南禅寺です」
小3女子、お笑い番組の見すぎです。 
水路をのぞきながら、「去年、父(←娘は私のことをこう呼びます)はここに落ちないでねって何度も言ったんだよ、もう保育園じゃなんだから落ちるわけないでしょ」と娘。そして、どうしてもこの水に触りたいと、深さ50センチほどの水路に手を伸ばします。それでも届かないので道路に腹ばいでになって手を伸ばします。お寺境内で腹ばいになれるところが、小学生の無敵なところでしょうか。背中にしょったリュックが逆立ち状態で、頭の上にずり落ちています。ここで水に触ることに何の意味が?と問うと、「特に意味はない」とのことです。

雰囲気ある外観です。



奥丹の門をくぐり、店内へ。庭の前でいったん待って案内を待ちます。「お二人さんですね、どうぞ」と案内され、縁側に沿って歩き、靴を銭湯ような靴箱の中に入れて室内に案内されました。茶室を思わせる天井の低い年季の入った純和風の空間。
「去年はあっちに座ったよね、こっちの席もいいかも」と娘。本当は窓からは庭がきれいに見えるはずですが、鍋からの湯気でガラス窓はみんな曇っていいます。でも逆にそれが冬の京都っぽい。

窓が曇っているところが京の冬の風情。

 
早速、注文。
ちなみに選択肢はありません。
「湯豆腐 一通りコース」(3,240円税込)のみ。子どもメニューがないので、小3女子と同伴の場合、大人二人分頼むか迷うところですが、二人前だとさすがに多いので、一人前のみの注文。「メニューが一つしかないお店っていうのは、自信があるってことだよね」と聞いたふうなことを言います。
「ねぇ、父」
「なに?」
「ここのお店って、いったい何人家族なんだろうね? すごい多いよ」
「え?」
「だってさ、みんな孫なんでしょ」
「孫?」
「さっき入口に書いてあったの読まなかったの? 孫が案内しますって書いたあったでしょ」
「それって、『係』だよ(笑)、係り」
 なんと店員全員が、さっき受付に座っていた初老の女将さんの孫だと思い込んでいた小3女子。
「あれ? あれ? 筆で書いてあったから、すごい読みにくい字だったんだよ」と娘。
 筆文字だったか僕もそこまで覚えていなかったので、納得しましたが、退店時に確認してみると、毛筆ではありませんでした。
「どう見ても『係』じゃん! 筆じゃないし」
「あれぇ〜?」
 咄嗟に言い訳が出てくるのが小3女子です。

これが問題の看板です。


 
 さて話を戻し、湯豆腐が運ばれてきました。


とりあえず、しっぽりOL風?

鍋に入った湯豆腐のほか、胡麻豆腐、串豆腐、てんぷら(海苔、大葉、カボチャ、獅子唐など5点)、ご飯、山芋とろろ、各薬味がずらりと並びます。子ども用の取り分け皿は、なんとクマのプーさんのプラスティック製。その味気なさに若干がっかりした様子ですが、箸袋(箸置きが折って作れる)がかわいくてにんまりです。


箸袋がウサギになります(笑)
 湯豆腐鍋の底のだし取り用の昆布を見て、「味が豆腐に染みてる気がする」
 「ねぇ、このワサビ取って」と胡麻豆腐の上のワサビをどけてほしいと要求してくる娘。まだまだ子ども、ワサビがダメ。そうかと思えばこんなことも言います。
娘「この山椒はいい、家のとちがうよ、生っぽい。だってうちのやつってスーパーで買うやつでしょ」
私「まぁね」
娘「やっぱり湯豆腐は京都だね」
私「分かるんだ?」(お皿はプーさんだけど)
娘「うんうん、この山椒が決め手です」
私「ワサビはだめで、山椒はOKなんだ?」
娘「だって山椒は辛い成分ないでしょ、普通、小学生大丈夫でしょ」


足がしびれて、「正座はもうやめた」と開き直る小3女子。

コースはご飯にとろろもついているので、意外にお腹いっぱいに。食後に熱いお茶をもらい、あぐらをしたままほっと一息。こんな時です、日本人に生まれてよかったなと思う瞬間は。同時に「あぁ、今、オレ京都にいるんだぁ」と実感します。


思えば四半世紀前、「奥丹」の前で一人、躊躇している紅顔の青年がいました(僕のことです)。大学4年生でした。本当は入ってみたかったのですが、一回の食事に三千円を出すことは無謀とも思える出来事で、結局店の門をくぐれませんでした。それに飲食店といえば松屋吉野家しか入ったこのない青年には果てしなく敷居が高い店構えに思えました。


あれから幾年月、私も大人になりました。豆腐を食べながら、なんとなく大人っぽく振舞えるのは、実は無邪気に振舞ってくれる娘のおかげなのだと、プーさんの皿をつかむ小さな手を見ながら思いました。娘と一緒に大人の修学旅行に来ている気もします。 


これから先、娘は大人になってからきっと誰かと、何度か京都に来ると思います。
ずっと先、恋人、そして夫となった人とも来るかもしれません。「もう何度目かの京都だけど、初めての京都は、父と歩いた京都だった」とその時思い出してもらうために、今僕は娘と一緒にここに来ているのかもしれません。

【本日のお会計】大人1人、子ども1人で3240円也(大人1人分コースのみ注文)。


【データ】
住所: 〒606-8435 京都府京都市左京区南禅寺福地町86−30
電話:075-771-8709
営業時間: 11時00分〜16時00分
http://www.webkyoto.com/okutan/
地下鉄蹴上駅から徒歩10分