港のブルース、牡蠣の味。

雨の夜、ここは横浜のとある埠頭。
ひと気のない大きな倉庫のような建物わきに車を停めました。
アクション映画でギャングが取り引きしそうな雰囲気で少し怖いです。
運転席に夫(小林)、後部座席に私(ワタナベ)と娘。



小3の娘「わー、煙出てる。何だか炭の香りがするよ!『かき小屋』だってさ。かき小屋ってなに?」
夫「カキを焼くとこだよ」
娘「だって、ここビルだよ」
夫「店名、イメージ、イメージ」
娘「早く行かないと売り切れちゃうかも。で、カキってなんだっけ?」
夫「貝です」
娘「あぁ…」

店の入り口。この建物奥が海に面しています。


 駐車場まで漂ってくるかきを焼く香ばしい炭火の香りに、店に入る前からテンションは上向きの娘。さてさて、今日は横浜の湾岸エリアで冬季限定で営業中の「かき小屋」へやってきました。
なんと店のテラスが海に面してます。船やヨットでの来場も歓迎とあります。確かに店に横付けできるのですが、そんな人本当にいるんでしょうか?
ビニールハウスというか、よく言えば小屋風。店内というか、半野外。炭火がないとかなり寒いです。たしかにどこか瀬戸内海の海岸のような風情。イスのビールケースはあえての演出でしょうか?
ちかちかと燃えるオレンジ色の炭を見ていると、大人も興奮してきます。
そこで娘が一言(まったく子どもは空気読みません)。
「ああ、でもウチ、貝嫌いだし…」
夫「え、そうだっけ?」


バイキング形式で、焼きたいものを自分で選んで、自分たちで焼くスタイル。カキは一皿(1kg)で1500円。ほかに貝付きのホタテ、サザエなどのほか、ハム類やホイル焼きセットなど、焼きたいものがずらり。一種のバーベキューですね。日本酒は片手鍋を渡されて、自分で炭火で温めるというオヤジスタイル。



 実は娘はカキを食べたことがありません(親もふだんあまり食べませんが)。独特のえぐみや渋みが嫌いで、実は貝類全般が苦手。そう、今日はかき初体験日なのです。
店支給の軍手をはめ、トングでカキの炭火の上に。すぐに缶をかぶせて蒸し焼き
にするのがここのやり方のようです。焼き上がるのに10分弱かかります。
殻付きのカキがかなりの迫力、ある意味グロテスク。この荒々しい物体の中に、プリプリした柔らかなあの身が入っているとは確かに子どもには想像しづらい。



娘「ああ、やっぱり無理かも、カキ」
夫「貝の中でも高級品なんだよ。嫌いって…。でも俺も子どものころよく分からなかったな。大人の味か」 
娘は食べたくない気持ち半分、炭火でジュージュー焼ける香ばしい香りに惹かれて食べたい気持ち半分。苦しい乙女心です。
恐る恐る箸でつまんで口へ運び、ごくり…。
「もっとぷりぷりしているのかと思ったら、案外ふにゃっとしているんだね。ぶちゅぶちゅにつぶしたタラみたい…」
表現だけは、いつも意外と関心します。
夫「なるほど、タラか。言えてる」
娘「思ったより、味はあんまりクセがないけど、ほらさ、貝っぽいからやっぱりイヤ…」
夫「だから貝だから…」
娘はひと口で終わりにしようとしましたが、意を決してもう一口。
「まぁ、さっきよりはおいしいかな」
夫「でしょ。落ち着いて食べようよ」
娘「でも、シシャモの卵をもっと小さくしたみたいにプチプチしている感じがどうしてもイヤ」
夫「……」
一口目よりじっくり味わった娘は、これ以上無理という風に箸を置きました。


小3女子、記念すべき、初牡蠣です。



娘「こっちのハム焼いていい?」
私「いいよ…」(ここがカキ焼くための店だとは、もはや忘れてるなコイツ)
娘「いいね、このジュージューな感じ!」
夫「まぁ、ハムもいいよね」
私(…結局、肉?)



 海なし県の信州育ちの夫は、ぽつり、独り言。
「でも俺、炭火で焼いたカキ食べたの初めかも。でも焼き方、相当難しいなぁ。なんか緊張する、さっきから時間まで計ってる」
というのも、客に焼かせる店側としては、食中毒防止のためしっかり熱を通してほしいらしく、店内のいたるところに「しっかり焼いてください。片面ずつ3〜4分」と張り紙が。
こちらもしっかり焼きたいのはやまやまですが、殻つきで中身が見えないこともあって、油断するとすぐにこげてしまい、なんだかよく分からないカキを食べるはめに。
かといってあまりにプリプリだと、逆に不安になって、店員に「これもう大丈夫ですか?」と聞いてしまうのです。


大人にとっては冬になったら「食べなくちゃ!」と思う食材の一つがカキ。
「今年もまた冬がきたなぁ」「肴に一杯やるか」とやや演歌的な心持ちかもしれません。子どもにはそんな意味でややハードルの高めだったかも。ま、「冬だね〜。いいね〜、カキの季節だね〜」という子どもはオヤジみたいで確かに怖いです。
〈本日のお会計 親子3人で6200円也〉

店のイメージキャラ。かなり濃い味付けで。


【DATA】
かき小屋 横浜タイクーン

(正式店舗名:ひろしま元祖 ミルキー鉄男のかき小屋 by TYCOON)

広島県内で何店舗も運営されている、かき小屋の直営店。本場広島から直送される新鮮なかきをはじめ、シーフードや肉料理を炭火で焼いて食べられるBBQスタイルが話題。かきを使った料理は、クラムチャウダーやアヒージョ、かき飯などほかにもいろいろあり、かき好きにはたまらない。ベイエリアならではの美しい夜景も楽しめる。

住所:横浜市中区新山下3-4-17
営業時間:11:00〜22:00(金・土・祝日前夜は、23:00まで) 冬期限定
お休み:不定休(雨天時や強風の場合、テラス席は使用不可となることも)
最寄駅:みなとみらい線元町・中華街駅
http://www.hiroshima-oyster.com//area/yokohama.php